重廣恒夫氏

比良連峰アタックでのイベント講演
重廣恒夫(しげひろつねお)さんと一緒に歩き、比良山八雲ガ原で登山に関する講演会が開催されました。
ご講演頂いた内容をご紹介します。
「安全登山について」お話がありました。お話の要旨をまとめましたのでご覧ください。

登山ブーム

第1次登山ブーム
 平均年齢30数歳、老若男女を問わず、切磋琢磨する登山。
 登山者は、トレーニングを行い規律と統制を受けながら育った。 
 なぜトレーニングするか。目的を達成するためにトレーニングを行った。
 人間は、ポパイのほうれん草を持っていない。
 突然何かを食べて突然力が出るわけではない。
 一日一日の積み重ねが、技術・体力を養成することができる。
 第1次登山ブームのときは、山岳部等に入り規律と統制を受けながら、技術と体力をつけてきた。
 一人で何回も行っても何の成果も出ないという考えが基本にあった。
第2次登山ブーム
 平均年齢59歳 元気な中高年に集中し、ある年齢に達して突然山登りを始める。 
 天気予報を気にする。晴れればいいな。確かに晴れれば気分は良い。
 山の天気は予測をすることができる。
 これだけ文明が発達しても、天気を制御することはできない。
 比良山でもエベレストでも突然天気が変わるのは同じです

雨の日に山に登りませんか 
私は雨の日に山に登りませんかといっている。登りながら雨が止んだん後の景色が一番美しい。
天気には周期があります。雨の次は晴れになるはずです。

身近な低山からはじめましょう
100の山にみんなが登り、続いて200の山、300の山と行くと、山はだんだん壊れてくる。
私は、ふるさと名山のキャッチフレーズに変えた。 
何千人と一緒に登る中で、こんな山知っていますかと聞かれた。
その人の近くの身近な山だった。或いはその人が愛している山だった。
原点は一番身近な低い山から登り始める。そして四季を通じて登る。 
気候の変化、天気の変化などいろんな体験ができる。
それらを通じて山についての技術や体力ができる
会社で30年も働いて実力を作ってきたのと同じである
私も、エベレストも同じで、レベル差はあれ、見方登り方を変えていく、上り詰めてきました。
22年かけて、k2からナムチャバルワまで行きました。
とはいえ、第2次登山ブームの今日、50歳過ぎから始める方が多い。
男性は定年間際の55歳、女性は子育てが過ぎた40歳ぐらいから登山を始めている。
始めたのはいいが、老い先短い。
いまさら学生のようなワンゲルで重いリュックを担いで訓練する暇がない。
早く、いろんなところに行ってみたいと、急ぐ傾向にある。
そんな時ザックの中に自分を守るものが入っているかである。
今日は天気がよく、天気予報を聞いても雨は降らないだろう。
雨具を持ってきていない人がおられるのではないでしょうか。

山に持っていくもの
私が山に行く時、持って行っているものは皆さんとそんなに変わらないと思います。
私のザックから出して説明しましょう。

 防風着
 今日は天気が良いのでいらない。しかし山に行くといつ天候が変わらないとも限らない。
 なければ寒くて動けなくなる可能性もある。
 雨具
 雨具は必需品。雨が降ろうと降るまいと必ず持っていく。
 我々は天気予報を知ることができるが制御することはできません。
 手袋
 山では突然寒くなることもある。できればナイロンかウールの薄手のものが良い。
 靴下予備
 長時間歩くと足がうっけつして歩けなくなることがある。少し薄手のものが良い。
 防寒着
 昔はセーターであったが最近はフリースがでて軽くよくなっている。
 薬品
 自分の常備薬・バンドエイド・包帯。ちょっと傷がついてもそれを手当てするかほっておくかによって
 精神的にも変わってくる。虫さされの薬など。
 たこの吸出し。蜂に刺されて死ぬ人もいる。蜂に刺されたときなど応急手当にあればいい。 
 装備の発達とともに人間は弱くなってきた。またいろんなものに過敏に反応するようになってきた。
 鏡
 ヘリに大声出しても聞こえない。女性はコンパクトの鏡で良い。
 ヘッドランプ
 明るいうちに帰るからいらないだろう。しかし道に迷った、動けなくなった。暗くなってきた。
 人間が夜目がきかない。
 ヘッドランプがなぜ必要か。山では必ず両手が使える必要がある。
 ザックをなぜ担ぐか。バックでもいいのだが両手が使えないからザックにする。
 ナイフ ライター
 何かのときに役立つ
 干し梅
 干し梅でなくても可。梅干でも良い。疲れてくると足が引きつることがある。即効薬が塩分です。

地図・磁石と事故について
 今日のようなイベントのときは道しるべがきちんと整備されている。
 しかも天気がよければ何の心配もなくなんとなく先に行ってします。
 しかし天気が悪くなりガスが出て迷うケースが出てくる。
 特に今日のようなイベントに慣れている人は非常に無防備である。
 地図と磁石を持ってきてくださいというと、持ってきてくれる。
 しかし帰るまでザックに入ったままで一度も見ない人がいる。
 もって行ってくださいということは、これを有効活用してくださいということですよね。

 地図は国土地理院のものが一番良い しかし案内も出ている登山地図でもよい。

 一番いいのは、登山する前にガイドブックを読んでください。
 読んでもわからないこともあるので、その情報を1/25000の地図に書き込んでください。
 マーカーなどでコースも書き込んでください。
 すると行く山の概念が頭の中に入ります。
 状況がわかります。迷ったときもここからどうしたらいいんだろうかが、わかるようになる。

 それでは、その地図をどのように使うかが問題です。 
 
 山に行った時、ばてない方法はどうしたらいいでしょうか?
 どうしたらいいんでしょうね!
 今度、槍ヶ岳に行きたいんですが行けるでしょうか?
 普通は大丈夫なんですけどね!ただ分かりませんよ!
 という会話がよくあります。

 最近の事故と、昔の事故の件数は変わっていないが、その質は変わっている。
 第1次登山ブームのときは、切磋琢磨する(トレーニングする登山)登山だったので、
 雪崩で埋まった。岸壁を登っていて転落した。落石にあった。
 長い合宿が終わり会社に行くために無理に帰ろうとして事故になった。
 などでした。
 第2次登山ブームでは80%が道に迷ったです。 
 道からこぼれ落ちた。こぼれ落ちて捻挫をした。骨折をした。頭を強打して亡くなった。
 などです。すなわち、初歩的なことで事故が増えています。

 1つの対応方法は地図を使いこなすことです。
 ところが地図を使いこなせる人は少ない。迷った人が今どこにいるのかも分からないのが現実です。

バテナイ方法と地図の活用は同時進行
 休憩時には必ず水を飲んでください。若干の食べ物を口にしてください。
 空腹を覚えてから食べてもすぐにエネルギーになるわけではありません。
 継続的な摂取をする。お腹がすいたという感じが出ないように、
 喉が渇いたという感じが受けない前に、少し補給をしてください。
 喉の渇きを覚えてガブガブ飲んでも何の役にも立ちません。
 それまでの小さな補給が大事です。
 なぜかというと、歩いているときに少しずつエネルギーを消費しているからです。
 少し消費すれば少し補給するのが一番良いわけです。

 次に、水を飲む前に 物を食べる前に 地図を広げてください。
 (地図の見方を説明 省略)

 地図を見ていれば、どの辺で分からなくなった、迷った位置が分かる。
 休憩のたびに地図を見ていると、そのうちに地図を使いこなせるようになる。
 必ず習慣付けるようにしてください。

道に迷うと下に降りる習性があります
 安全登山ということでお話しましたが、道に迷ったとき、人間は必ず下に降りる習性があります。
 下るとそこには滝があります。そこで転落や動けなくなるケースが多くあります。

 まず、迷ったところまで戻るのが原則です。
 できないときはできるだけ高いところ、上が見えるところに上がりましょう。
 谷に入るとヘリからは見えない。
 昨日もポピュラーな金剛山で事故がありました。
 携帯電話で事故の連絡が入ったが、それ以降の情報がつかめない。何時間もヘリが飛んだそうです。
 地図も読めないので、便利な携帯電話を持っていても連絡がつけなければ意味がありません。

 事故を起こさないようにするには、自分自身でしかない。
 起こした場合は、退避する知識を有すること。
 起こさないようにする努力する。それらの知識を得る。ガイドブックや周りの人に聞く。 
 トレーニングで歩くということ、実際に山登りを積み重ねていくことだと思います。

雨も降ります 風も吹きます
四季の移り変わりも楽しめます。同時に厳しさも体験できます。積み重ねが安全登山につながります。
これからも山登りを楽しんでください。

重廣恒夫氏のプロフィールは、アシックスのホームページに掲載されていますのでご覧ください。

重廣恒夫(しげひろ つねお)
1947年山口県生まれ。 1996年日本100名山連続踏破を123日で達成。
現在(株)アシックス勤務。
文部科学省登山研修所運営委員・主任講師・日本山岳会会員。
(京阪の比良連峰アタックのパンフレットにより)


実施日 2002.5.26